邦楽舞踊を知るほうがくぶようをしる

「和風オーケストラ」素囃子の魅力
藤間 勘寿々 日本舞踊のルーツは1600年ごろに出雲阿国(いずものおくに)が始めた「ややこ踊り」とされ、その後先人たちが約100年かけて工夫と改良を重ね、伴奏に笛や太鼓、三味線などを使う現在の日本舞踊の形になったと言われています。明治に入ると芸はさらに洗練され、民衆の娯楽だけではなく舞台芸術としての顔を持つようになりました。大正時代には流派が一気に増えていき、現在では日本舞踊協会に登録されている流派は100を超え、金沢では宗家藤蔭、正派若柳、泉、西川、宗家藤間の5流派が活動しています。
 踊りの役柄は、人物では歴史上の有名人から庶民まで、老若男女を問わず多岐にわたります。人物だけではなく動物を演じる曲もあり、舞台上にさまざまな世界が繰り広げられる点も日本舞踊の面白さと言えるでしょう。 
 私は日本舞踊で大切なことは、「無」の境地になることだと思っています。踊りと真摯(しんし)に向き合うことで、心から雑念を取り払うことが「無」の境地です。現代人の忙しい生活環境の中で、一つのことに集中しなければならない空間を持てるということは日本舞踊の魅力でもあると考えています。心に乱れがあると、「無」になることは難しくなります。そのため舞踊の成長は、心の成長につながっているとも言えます。
 日本舞踊は「振り」から「振り」への動きが大切です。流れるような自然な動きをするためには、稽古(けいこ)中だけではなく、日常生活の中でも美しい所作を心掛けなければいけません。生活が乱れていると踊りに現れてしまい、美しいものは見せられないのです。
 金沢は成熟した文化を持つ都市で、日本舞踊を鑑賞したり、体験する機会や場所の多さは地方都市では有数です。この地に生まれてすばらしい芸と出会い、精進を続けられることを幸いに思います。